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314 考古学と他分野の意見交流の場(難波氏論文に関連して)
2006/3/6(月)08:34 - 山口昌美 - ins142.ibaraki-ip.dti.ne.jp - 13651 hit(s)

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 「季刊邪馬台国」91号(梓書院、2006年4月)に難波紘二氏(広島大名誉教授)の「言語の起源と意識の発生について」という題名の論文が掲載されている。人類の起源、ネアンデルタール人類の急速な絶滅、言語に関わる遺伝子の突然変異などから、言語や人類の発展に関する一つの仮説を提唱しており、関心のある向きには興味を持って読まれる内容であろう。

 「季刊邪馬台国」は安本美典氏が編集にあたっており、その読者層はアマチュア歴史ファン、多分、邪馬台国ファンや安本氏ファンがかなりの層を占めると思われる。直接販売が主体なのか、大書店ならともかく、普通の書店では見かけない雑誌である。

 気になったのは、このような一般向け雑誌、しかも目にする機会の少ない雑誌に掲載された論文に気付く考古学関係者がどのくらいいるのか、ということである。
 
 一方、池橋宏氏(農水省研究機関→京大教授)は、"稲作の起源―イネ学から考古学への挑戦"(講談社、2005年12月)を上梓し、照葉樹林農耕論や土器の籾殻痕に疑問を寄せた。この本はセンセーショナルな副題のせいか、新聞の書評欄でも取り上げられ、話題になったようである。

 池橋宏氏が照葉樹林農耕論に疑問を投げかけたのは、この本が最初ではない。「農業及び園芸」77巻10月号(2002)から78巻2月号(2003)の5回にわたり、「根菜農耕から出た水田稲作―起源問題の再考―」という題名で、ほぼ同様な内容の連載を行っており、照葉樹林農耕論に疑問を投げかけている。
 古代農耕に関心のある考古学関係者の中で、「農業及び園芸」の池橋宏氏の連載に気付いた人がどのくらいいたのであろうか?

 難波氏や池橋氏のような他分野の専門家の考古学関連の論文は、それなりの専門知識を背景としているだけに、考古学関係者にとっても有益な内容を含んでいる可能性が高いと推定される。また、他分野に関連する(例えば古代農耕とか、言語や人類発生に関する)考古学関係者の論文は、関係するその分野の人々にとって興味ある内容を含んでいることが多いだろう。
 他分野の専門家の考古学関連の論文は、考古学分野における発表の手がかりがないために、一般向け雑誌やその分野の専門誌に掲載されることが多い。それらの論文に考古学関係者が気付くことは困難である。
 逆に、考古学専門誌での考古学関係者の論文や意見は難波氏や池橋氏に届きにくい。

他分野の専門家と考古学関係者の意見交流に何かよい方策がないものか、と思う。


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