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335 高松塚古墳・私感3
2006/5/30(火)20:48 - 山口昌美 - ins164.ibaraki-ip.dti.ne.jp - 11092 hit(s)

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 ネット上で公開されている高松塚古墳壁画関係の資料を眺めていると、いろいろ面白いことに気付く。
 
 奈良新聞http://www.nara-shimbun.com/special/takamatu/vol_03a_01.html によると、
「高松塚古墳応急保存対策調査会」が昭和47年11月に発行した報告書には、「石室環境の安定化」として以下のような対策が示されているとのことである。
(1)石室内温度を14度プラスマイナス3度に保つ
(2)95%以上の高湿を維持してしかも結露を防止
(3)炭酸ガス量を最低に
(4)天井石の亀裂を接着し、切り石のすき間を埋める。

 この“対策”に沿って、以後の壁画保存の管理がなされたと思われるので、この“対策”は、壁画管理において、いわば日本国憲法的な重要な位置を占めたと思われる。
 この“対策”は、「石室環境の安定化」を目指したものであり、念頭にあったのは微生物による変化と物理化学的な変化の防止であろう。

 このような基本的“対策”が、どのような討議・審議の下で決定されたのか、その経緯を知りたいと思ったが、ネット上で情報を見つけることはできなかった。

 討議・審議の経緯は分からないが、討議・審議したのは「高松塚古墳応急保存対策調査会」のメンバーである。メンバーの中には、外部の微生物専門家も防黴防菌関係者もいなければ、外部の化学者もいない。微生物増殖や物理化学的な変化への洞察とそれへの対応を考察できる専門家はいたのであろうか?

専門家不在の委員会で、有効な基本的“対策”を打ち出すことはきわめて困難であろう。
微生物増殖を防いだり、壁画基層の崩壊を防ぐために、「95%以上の高湿」「炭酸ガス量を最低に」の対策が打ち出されたわけだが、どうも私にはよく理解できない。
 
 奈良新聞では11月と書いてあるが、 文化庁HPで調べると、報告書提出日は11月29日である。
 一方、佐野千絵氏らの「高松塚古墳の微生物調査の歴史と方法」(2004年)によると、昭和47年の秋,文化庁が招いたフランスのラスコー洞窟の保存に経験の深かったY.M.フロアドヴォ教授とJ.ポシヨン教授の調査所見は次の5項目、と紹介されている。
(1)石室内温度と湿度は季節的安定を保つこと。
(2)壁画面の結露は絶対に避けること。
(3)炭酸ガスの増加は避けること。
(4)微生物,緑藻類とカビの計数と性質の究明が大切であること。
(5)殺菌剤・除草剤の使用については,完全消毒後に薬剤が残留しないよう量を制限すること。
昭和47年の秋と書いてあるが、両氏の滞在は、文化庁HPで調べると10 月7日〜 10 月13 日であり、所見はその間に発表されたのだろう。

 「高松塚古墳応急保存対策調査会」の報告書と両氏の所見はよく一致している。両氏の所見を土台にして、というかほぼそのまま、やや具体化した形で報告書は作成されたと見られる。報告書作成の過程でどの程度の検討がなされたのであろうか?
 後日、批判することは容易であり、遡及して云々するのは当時の関係者に対し心苦しく思うが、フランスの両氏所見が微生物対策に主点が置かれていることを考慮すれば、「高松塚古墳応急保存対策調査会」は外部の微生物専門家や防黴防菌関係者を参考人として招致し、その意見を訊くべきだったと思う。


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