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覚書10 泥と埃

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 サンダーバード

発掘調査の仕事から遠ざかって、もう3年近くなる。

炎天下の夏はランニングシャツ1枚で大バチを振りまわして古墳の墳丘を剥いたあと画板に汗をボタボタ垂らし、雪がちらつく冬は洟を垂らしながら凍てつく大地と格闘したあと凍える手で測量や遺構実測に励んだ学生時代。それから、もうかれこれ11年。あの頃は、腹筋も4つ以上に割れていたから(ちょっとウソ)、ランニングシャツのまま近鉄電車に乗って現場へ通っても全然恥ずかしくなかった(普通の若者なら恥ずかしいやろけど)。就職してからは、毎日発掘現場に立っていたとはいえ、力を必要とする仕事は作業員まかせで、掘り方を指示するときぐらいしかツルハシや大スコ(シャベル)を手にしなかった。そのツケがすぐに来て、あれよあれよという間に、割れていた腹筋を紛失し、その代わりに立派な脂肪の塊を装着してしまった。

とはいえ、学生の時と同様に3年前までは、発掘現場へ毎日出ていたので、毎年夏場は見事なまでに真っ黒に日焼けしていた。肌地がもともと白いために、毎年冬になると日焼けによる黒変は消え去り、真っ白な肌に戻っていた。そのコントラストがあまりに顕著なため、大学時代からの親友U本君「まるで雷鳥みたいなやつやな」と評したものだ。

文化財保護を担当していた職場から、博物館開設準備を担当するいまの職場へ出向してからというものの、日の当たる仕事場にほとんど出ていない。おかげで、真っ黒に日焼けすることもなく、情けない白ムチの腕と青白い顔色が標準状態となってしまっている。おまけに、やっぱり腕力も確実に低下しているし、以前にも増して脂肪も増量しているようだ。U本君がもし横にいたならば「まるで白ブタみたいなやつやな」と言うだろう。博物館学芸員としての今の仕事に充分魅力を感じているものの、体力と知力の両方を均等に使い込む屋外での現場仕事のほうが自分にとっては適しているのではないかと思う今日この頃である。

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 泥と埃

みなさんも同様かと思うが、我々のような発掘調査に従事してきた者にとっては、土で汚れることにさほど抵抗がない。泥まみれになっても嫌悪感を覚えないのだ。もちろん、家に帰れば風呂に入って綺麗さっぱりしたいが、現場で作業しているときはほとんど気にならない。肥料やその他が発する得も言えぬ悪臭が漂う発掘現場であっても、慣れればからだに染みついた臭いも苦にならないものだ。だから、現場から持ち帰った泥だらけの出土遺物も、洗浄する前であろうがなかろうが、汚いという感覚が湧かない。

ところが、埋蔵文化財保護に携わっていない人の感覚はかなり違う。僕が以前勤務していたところでは、古文書史料を扱う人と埋蔵文化財資料を扱う人が同じ場所で内勤していた。発掘現場から帰ってきて、湯気が立つぐらい掘りたてホヤホヤの泥まみれの遺物が入ったコンテナを、手狭な事務所の玄関先に積み上げると、古文書担当の人が何事かと出てきて、顔をしかめてよく言ったものだ。

「え〜! また、きったないもん、ぎょーさん持って帰ってきて・・・」

そんな泥まみれの汚いもんを、よくもまあ持って帰ってくるなー。ただでさえ狭い事務所が、そんな汚物を持ち込んだら余計に狭く不快になるじゃないか。どっかで捨ててくればいいのに・・・といった思いが込められた一言である。汗だくになりながら、根性出して運んできた重たいコンテナ群を、そのようにあからさまに嫌われると、非常に情けない気分になったものだ。今は発掘調査から離れて別の仕事をしているが、発掘出土品である展示資料をそのように汚いものとして考えている人もたまに見かける。

以前、ある旧家の蔵の調査を手伝ったことがある。大きい自治体の文化財担当部署ならば、埋蔵文化財担当者が古文書調査等を手伝うことなど考えられないだろうけども、そうでない職場ではそうもいかない。その蔵はもう何十年も密閉されたままの強者で、資料の保存率が高いと期待されていた。蔵の中に一歩足を踏み入れてからは、もう驚愕の連続だ。そこらへんに置き去られている新聞紙に目をやると、力道山がカラテチョップしている写真。この家の今の主が子供の時に入って以来、この蔵はほぼ密閉されていたのは疑いない。蔵の内部は真っ暗なので、懐中電灯を頼りに調査が続けられた。内部の資料は、保管状態をスケッチや写真に記録してから外へ運び出される。発掘調査とある部分共通する作業だ。ところで、僕らが蔵の中に入る前から、中の埃の量は相当なものと予想されていたので、口にはマスクをして、その上からタオルを巻き付けて充分な防塵対策をした。と思いきや、蔵の中のものを少し外へ出し終えた頃に休憩したとき、マスクを外して気が遠くなった。マスクの内側が埃やなんやらで真っ黒なのだ。ということは、露出していた眼のなかにはもちろん、マスクを通過して呼吸器内にも、鼠の糞とか得体の知れないものを主成分とする粉塵が充分に供給されたことを意味する。

発掘現場の泥と、蔵の中や古文書についた埃と、どっちが汚くて不快かは人によって違うだろうが、僕はからだが痒くなるような埃のほうをできれば遠慮したい。

[登録:2000年09月20日]
おがみ大五郎


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