第2節 池尻遺跡(1)・狭山池ボーリングの珪藻・花粉分析
川崎地質株式会社 担当者 渡邉正巳
1 はじめに
狭山池は大阪府中部に位置する大阪狭山市に位置する。また池尻遺跡(1)は狭山池堤下流部に位置する遺跡である。今回の報告では、発掘調査に伴って露出した地層より採取した試料と、狭山池内でのボーリング試料を対象として珪藻分析・花粉分析を行い、狭山池周辺での古環境復元などを行った。
- 図287 試料採取地点, 図288 池尻遺跡(1)地点の珪藻ダイアグラム, 図289 池尻遺跡(1)No.1地点の珪藻総合ダイアグラム, 図290 池尻遺跡(1)No.2地点の珪藻ダイアグラム, 図291 池尻遺跡(1)No.2地点の珪藻総合ダイアグラム, 図292 池尻遺跡(1)No.3地点の珪藻ダイアグラム, 図293 池尻遺跡(1)No.3地点の珪藻総合ダイアグラム, 図294 狭山池ボーリングNo.2の珪藻ダイアグラム, 図295 狭山池ボーリングNo.2の珪藻総合ダイアグラム, 図296 狭山池ボーリングNo.2の花粉ダイアグラム:ij1sikkf.pdf (PDFファイル 2.06MB)
2 試料について
今回分析した試料のうち池尻遺跡(1)の3地点(図287)22試料については、川崎地質株式会社が分取した。それぞれの地点の柱状図および試料採取層凖は図288〜296のダイアグラムに示す通りである。
3 分析方法
珪藻分析、花粉分析は、それぞれ渡辺(1995a・1995b)に従い行った。
4 分析結果
(1)珪藻分析結果
分析結果を図288〜295の珪藻ダイアグラム、珪藻総合ダイアグラムに示す。珪藻ダイアグラム、珪藻総合ダイアグラムは計数した珪藻化石の総数を基数にし、百分率で表した。珪藻含有量が少なく、珪藻検出数が50に満たなかった試料については、検出できた花粉化石の種類のみを※で示した。
(2)花粉分析結果
分析結果を図296の花粉ダイアグラムに示す。花粉ダイアグラムは計数した木本花粉を基数にし、百分率で表した。花粉含有量が少なく、木本花粉検出数が100に満たなかった試料については、検出できた花粉化石の種類のみを※で示した。
5 考察
(1)珪藻分帯
No.1、2地点では珪藻化石の検出量が少なかったため、珪藻分帯を行わなかった。No.3、4地点(ボーリングNo.2)について、珪藻分析結果をもとに珪藻分帯を行った。
No.3地点- 3-I帯(試料No.12)
海産〜汽水産種の Coscinodiscus spp., Cyclotella stylorum, Thalassiosira bramputrae などで全体の50%を占める。淡水種では Stephanodiscus astraea などの浮遊性種が淡水種の50%以上を占める。
- 3-II帯(試料No.11)
海産〜汽水産種はほとんど検出されず、淡水・底生種の Cymbella aspera, Eunotia pectinalis, Gomphonema parvulum, Pinnularia 属、Stauroneis phoenicenteron などでほぼ100%を占める。
- 3-III帯(試料No.10)
Cyclotella stylorum, Thalassiosira spp., Coscinodiscus spp. などの海産〜汽水産種が全体の30%程度を占める。淡水種では Comphonema gracile, Cymbellaaspera, Pinnularia spp. などの底生種で淡水種の80%程度を占める。
- 3-IV帯(試料No.9)
海産〜汽水産種はほとんど検出されず、淡水・底生種の Pinnularia gibba, Cymbella 属、Eunotia pectinalis, Gomphonema 属、Stauroneis phonicenteron などで全体のほぼ100%を占める。
- 3-V帯(試料No.8、7)
Nitzschia cocconeiformis などの海産〜汽水産種が全体の10〜15%程度を占める。淡水種では、Cymbella aspera, Cymbella cuspidata, Pinnularia viridis, Stauroneis phoenicenteron などの底生種で淡水種の100%近くを占める。
- 3-VI帯(試料No.6〜3)
検出量が少ないが、淡水・底生の Cymbella 属、Pinnularia 属などが検出される。
- 3-VII帯(試料No.2)
海産〜汽水産種は全体の10%未満であり、淡水種では Cymbella cuspidata. Neidium cuspidata, Pinnularia 属、Stauroneis 属などの底生種が淡水種の80%程度を占める。
- 3-VIII帯(試料No.1)
検出量が少ないが、汽水産種の Nitzchia cocconeiformis や、淡水・底生種の Cymbella cuspidata などが検出される。
No.4地点(ボーリングNo.2)- 4-I帯(試料No.6)
検出量が少ないが、淡水種が全体の100%を占める。Achnanthes inflata などの底生種や、Eunotiappraerupta, Hantzchia amphioxys などの陸生種で、淡水種のほぼ100%を占める。
- 4-II帯(試料No.4、3)
Coscinodiscus spp., Thalassiosira spp., Thalassiosira bramaputrae, Cyclotella stylorum などの海産〜汽水産種が全体の50〜20%程度検出される。淡水種では Stephanodiscus astraea, Melosira 属、Surirella 属などの浮遊種が淡水種の80%〜50%程度を占める。
- 4-III帯(試料No.2)
海産〜汽水産種はほとんど検出されず、淡水種が全体のほぼ100%を占める。淡水種では Stauroneis phoenicenteron, Neidium iridis, Pinnularia viridis などの底生種が90%程度を占める。
- 4-IV帯(試料No.1)
海産〜汽水産種はほとんど検出されず、淡水種が全体のほぼ100%を占める。淡水種では Gyrosigma spp., Cymbella tumida, Nitzshia tryblionella などの底生種が75%を占める。
(2)花粉分帯
花粉分析結果をもとに花粉分帯を行った。
(3)堆積環境
珪藻分析結果および珪藻分帯をもとに、1〜3地点での堆積環境を推定した。No.4地点に付いては「(4)環境変遷」で花粉分析結果および花粉分帯を踏まえて述べる。
(No.1地点)
全ての試料から海産〜汽水産種が検出されるが、試料の採取状況から海での堆積であるとは考えられない。このことから、これらの珪藻化石は再堆積による二次化石であると考えられる。全ての試料で、Cymbella cuspidata などの底生種が優占することから、浅い沼や湿地での堆積が推定できる。
(No.2地点)
No.1地点同様、海産〜汽水産種が検出される。特に試料No.3では海産〜汽水産種の検出率が高いが、試料の採取状況から海での堆積であるとは考えられない。このことから、これらの珪藻化石は再堆積による二次化石であると考えられる。試料No.3では淡水種の浮遊種が優占し、やや水深のある環境が考えられる。しかし後述のように浮遊種の検出量の関係から、浮遊種にも二次化石の可能性がある。試料No.5では底生種が優占し、浅い沼や湿地での堆積が推定できる。
(No.3地点)
3-I、III、IV帯では、海産〜汽水産種が優占する傾向にある。しかし、No.1、2地点同様に、試料の採取状況から海域での堆積であるとは考えられない。また海産〜汽水産種が優占する試料では、淡水の中で浮遊種が優占する傾向がある。このことは他の3地点にも当てはまり、海産〜汽水産種と同様に浮遊種にも二次堆積の可能性がある。
- 3-I帯(試料No.12)
海産〜汽水産種で全体の50%以上を占める。また浮遊種が淡水種の50%以上を占める。これらには前述のように二次化石の可能性がある。検出された淡水種の珪藻化石を一次的なものと考えると比較的浅い池・沼であったと推定できる。
- 3-II帯(試料No.11)
Cymbella aspera, Eunotia pectinalis, Gomphonema parvulum, Pinnularia 属、Stauroneis phoenicenteron など淡水・底生種が全体のほぼ100%を占めることから、浅い沼や湿地での堆積が推定できる。
- 3-III〜VIII帯(試料No.10〜1)
3-III、V、VIII帯では二次堆積と考えられる海産〜汽水産種が全体の15%以上を占める。しかし、Gomphonema 属、Cymbella 属、Pinnularia 属などの底生種で淡水種80%以上を占めている。また3-IV、VI、VII帯では海産〜汽水産種は10%以下の出現率であり、Pinnularia 属、Cymbella 属、Eunotia 属、Gomphonema 属、Stauroneis 属などの底生種で淡水種のほとんどを占めている。これらのことから、III〜VIII帯は浅い沼や湿地での堆積が推定できる。
(4)環境変遷
No.4地点(ボーリングNo.2)について、珪藻・花粉分析結果から古環境を推定する。
6 まとめ
今回行った珪藻分析・花粉分析から以下のことが明らかになった。特に狭山池周辺の環境変化を推定するためには、池内部でのボーリング試料を対象とした花粉分析が有効であることが、No.4地点の分析から明らかになった。
- 珪藻分析結果からNo.3地点では3-I〜VIIIの8珪藻帯に、No.4地点では4-I〜IVの4珪藻帯に分帯できた。
- 花粉分析結果からNo.4地点ではP-I〜IIIの3花粉帯に分帯できた。
- No.1、2地点での堆積環境、No.3地点での堆積環境変遷が推定できた。
- No.4地点での環境変遷が推定できた。
- No.4地点試料No.5、6層凖は氷期の堆積物であると考えられたが、年代は推定できなかった。
- No.4地点P-II帯の内、下部の試料No.3の層凖は5世紀以降、上部の試料No.4の層凖は16世紀以降の堆積であると推定できた。
- No.4地点試料No.1、2の層凖は近代以降の堆積であると推定できた。
- 参考文献
- 1)古谷正和「大阪周辺地域におけるウルム氷期以降の森林植生変遷」(『第四紀研究』18121-141,1979)
- 2)藤田憲司・古谷正和・渡邉正巳「大阪府南部地域におけるアブラナ科花粉の高出現率期について」(『日本文化財科学会第8回大会研究発表要旨集』33-34,1991)
- 3)中村純「イネ科花粉について、とくにイネ(Oryza sativa)を中心として」(『第四紀研究』13187-197,1974)
- 4)西田一彦「狭山池内堆積土の物理・力学的性質」(『狭山池調査事務所平成3年度調査報告書』72-84,1992)
- 5)武部善人『河内木綿史』p.275,吉川弘文館,1981
- 6)渡邉正巳「40・珪藻分析方法」(『考古学ライブラリー65 考古資料分析方法』86-87,ニュー・サイエンス社,1995a)
- 7)渡邉正巳「40・花粉分析方法」(『考古学ライブラリー65 考古資料分析方法』84-85,ニュー・サイエンス社,1995b)


※当文書は狭山池調査事務所が編集・刊行した発掘調査報告書『狭山池 埋蔵文化財編』(1998年3月31日発行)をHTMLファイル化したものである。
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