南河内考古学研究所「日本考古学研究におけるオンライン化の動向(後編)」
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『情報 祭祀考古』第18号(2000年8月31日、祭祀考古学会発行)所収

日本考古学研究におけるオンライン化の動向(後編)

大阪府立狭山池博物館開設準備室 植田隆司
[1.はじめに]
[2.法人系サイトに求められる機能]
[3.法人系サイトの公開状況]
[4.法人系サイト運営上の問題点と課題]
[4.おわりに]
[註記]

1.はじめに

前回は「日本考古学研究におけるオンライン化の動向(前編)」と題して、個人系考古学Web(ウェッブ)サイトの現況を概観した。今回は、日本考古学および埋蔵文化財に関連する機関や団体のWebサイトの整備状況について言及しようと思う。都道府県・市町村などの地方公共団体、地方公共団体・財団法人・大学などが運営する調査研究機関、考古学資料を展示・収蔵する博物館などが運営するWebサイト(以下、法人系サイトと記述)の数はこの数年で格段に増加した。全ての関連法人系サイトのURLアドレスを全てブックマークに登録して、日々あまねく閲覧するのは事実上不可能なほどである。これは各機関が単に世間の流行を追ったのではなく、情報公開化の大きな潮流の中でその有効な手段としてWebサイトという形態が選択された結果と考えたい。

全国的に整備されつつあるこれらの法人系サイトが適切に運用されるならば、各研究者はこれを有効に活用することによって、自宅や職場に居ながらにして国内各地の発掘調査状況や博物館等で実施される事業を的確に把握し、各機関に蓄積されている関連データベース等を利用して研究に先立つ資料調査を合理的に進めることが可能となるはずである。こうした関連情報のオンラインでの公開によって、研究者が資料調査に割り当てる時間は従来に比べて当然ながら短縮されるであろう。そうして発生した余剰時間は、データの分析や論理構築などの研究における主要な活動に充当すればよいのだ。また、ことさらに研究活動をおこなっていない人にとっても、Webサイト上でおこなわれる情報公開によって得られるデータが有用なものとなる可能性は高いと思われる。

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2.法人系サイトに求められる機能

前回述べたように、個人系サイトに利用者側が期待しているであろう機能としては「その個人系サイト独特の内容開示機能」・「高い更新頻度と速報性のある情報提供機能」・「情報獲得のための多方向性コミュニケーション機能」を挙げることができる。これに対して法人系サイトに期待されるであろう機能としては「信頼性の高い情報公開機能」・「公的サービスのオンライン提供機能」の2つが考えられる。これは従来ではサイト利用者が自分の足を使って関連諸機関等から獲得していた情報やサービスをオンライン上で得ようとする状況を考えれば、当然予想されるものである。

こうした機能を充足する法人系サイトの構成としてはどのようなモデルを想定すべきであろうか。たとえば、埋蔵文化財センターや地方公共団体の文化財担当部局のサイトならば、「情報公開機能」を満たすコンテンツとしては、その機関が担当するエリアにどのような文化財があるのかを簡潔にとりまとめた一覧等の基本データを掲載したページ、最新の発掘調査成果などを正確に紹介する速報ページ、既刊の発掘調査報告書や現地説明会資料などの刊行物のリストや埋蔵文化財情報などをWeb上で検索可能な情報検索機能をもったコンテンツが想定されよう。また同機関の「公的サービス提供機能」を満たすには、前述の刊行物やその機関が提出を要求している書式(発掘届等)をPDF(Portable Document Format)ファイル(註1)等のデジタルデータのダウンロードサービスを提供したり、それらのHTML(Hyper Text Markup Language)ファイルのオンライン閲覧を可能とする電子刊行物配布機能が必要となろう。また、各種問い合わせをオンライン上でも受け付ける用意があるならば、担当部局のメールアドレスも明示しておく必要がある。さらに徹底するならば、掲示板などの多方向性情報交換機能をもったページを設置して、利用者の質問等に適時回答すると同時に利用者間でも意見交換が可能なものとする必要があろう。

また、博物館などのサイトでは「情報公開機能」を満たすコンテンツとしては、館の利用案内や展示・収蔵資料の紹介記事などの基本データを掲載したページ、特別展示・企画展示・講座などの館の催し物案内や新規の展示・収蔵資料を紹介する速報ページ、既刊の展示図録や博物館紀要などの刊行物の概要、あるいは収蔵資料目録などをWeb上で検索可能なページや、さらにはWebページ上で実際の博物館内を観て歩くように展示資料を観察できる「バーチャル博物館」のようなページなどの情報検索機能が挙げられる。また博物館の「公的サービス提供機能」を満たすコンテンツとしては、刊行物のPDFファイル等のダウンロードサービスや刊行物のHTML版の閲覧を提供する電子刊行物配布機能、利用者が学芸員に公開質問して回答を得ることができる掲示板などの多方向性情報交換機能が考えられる。また、当然ながら、担当課のメールアドレスも明示しておく必要がある。

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3.法人系サイトの公開状況

では、上記のような法人系サイトに期待されるであろう機能は、各Webサイトにおいてどの程度実現されているだろうか。ここでは、法人系サイトの開設状況について確認し、各サイトごとの内容調査を実施した。なお、調査に際しては、登録型検索サイトであるYahoo! JAPAN(http://www.yahoo.co.jp/)、Infoseek Japan(http://www.infoseek.co.jp/)やgoo(http://www.goo.ne.jp/)などの全文検索システム、および各種リンク集を併用してそのURLを確認し、2000年3月から9月にかけて閲覧を実施した。閲覧に使用したブラウザは、Microsoft Internet Explorer 5.5および、Netscape Communicator 4.7である。また、詳細な閲覧を必要とするサイトについては、Web巡回ソフトGetHTMLW ver.7.7(註2)を使用して各構成ファイルのダウンロードをおこなった。法人系サイトの開設状況および内容を調査した結果は、表1〜表7にとりまとめた。なお、当然ながらWebサイトの掲載内容は適時更新されていくものである。ゆえに、本稿をお読みいただいている時点における各サイトの内容が以下の記載や表中の記載と異なる可能性がある。また、各サイトのURLも執筆時点で確認したものであるため、サイトが別のサーバーに移動した場合や各サイトの上部サイトが編成替えをおこなった場合はアクセスが不能となる。その際は検索サイトやリンク集ほかで各自ご確認いただきたい(註3)

一覧表作成に際してはそのサイトの概要を確認したほか、法人系サイトに期待されるであろう情報公開機能と公的サービス提供機能を満たすに不可欠であろうと思われる6つの機能、基本データ掲載機能・速報機能・電子メール応答機能・情報検索機能・電子刊行物配布機能・多方向性情報交換機能を各サイトごとに確認し、表中の[基本情報]・[速報機能]・[メール表記]・[情報検索]・[刊行物配布]・[掲示板]の項目にチェックをおこなった。

[調査研究機関・団体],[地方公共団体埋蔵文化財担当部局],[博物館・資料館],[大学の調査研究機関・研究室]

(1)調査研究機関・団体 (表1表2)

国や地方公共団体、その他財団法人などの機関・団体が運営しているWebサイトの総数は、施設紹介的なものも含めれば36箇所を数える。そのうち、独立したWebサイトとして当該機関・団体によって管理・運営がおこなわれていると判断されるものは、表1に掲げた21箇所である。その全てのサイトが[基本情報]と[速報機能]をコンテンツとして常備していると確認できる。おそらくは大抵の利用者が調査研究機関・団体のサイトを閲覧する際に獲得したいと考えるであろう速報的情報の主なもののひとつが、その機関・団体が実施している発掘調査の最新情報ではなかろうか。現地説明会等の催し物案内や年度毎の発掘調査リストを掲載しているところは多いが、発掘調査成果の概要速報ページのような形で掲載しているものは、9箇所にとどまる。

調査研究機関・団体のサイトで、その代表電子メールアドレスを表記しているのは13箇所にとどまる。利用者側からの電子メールによる問い合わせがあった場合、これに対する柔軟な応答が可能かどうかが重要である。この問題を各機関が根本的に解決できないかぎり、電子メールアドレス公開は無意味なものと言える。こうした問題を解決できていないがゆえに、電子メールアドレスを表記していないサイトが予想以上に多いのかも知れない。

オンライン上における情報公開と公的サービスの提供を充実したものとする拡張機能的なコンテンツの整備状況をみると、情報検索機能を有するサイトは5箇所、電子刊行物配布機能を有するサイトは8箇所存在する。また、多方向性の情報交換を実現するための掲示板機能を有するものは、調査研究機関・団体のWebサイトでは現在のところ皆無であった。

情報検索システムをもつサイトには、財団法人高知県文化財団が管理・運営する【高知県埋蔵文化財センター】(表1-No.8)、島根県古代文化センター【古代文化センター】(表1-No.10)、【奈良国立文化財研究所】(表1-No.16)、【新潟県埋蔵文化財センター】(表1-No.17)、【日本考古学協会】(表1-No.18)がある。

電子刊行物配布機能をもつサイトとしては、財団法人石川県埋蔵文化財センターが管理・運営する【いしかわの遺跡】(表1-No.2)、【香川県埋蔵文化財調査センター】(表1-No.5)、【島根県教育庁埋蔵文化財調査センター】(表1-No.9)、島根県古代文化センターが管理・運営する【古代文化センター】(表1-10)、【奈良県立橿原考古学研究所】(表1-15)、【奈良国立文化財研究所】(表1-16)、【日本第四紀学会】(表1-19)、財団法人広島県埋蔵文化財調査センターが管理・運営する【遺跡探訪のへや】(表1-20)が確認できる。

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(2)地方公共団体埋蔵文化財担当部局 (表3表4)

全国47都道府県のうち、埋蔵文化財担当部局が制作・管理・運営に携わっていると判断されるWebサイトは、業務紹介的なものも含めて34箇所存在する。市町村の埋蔵文化財担当部局が管理・運営に携わっているサイトをすべて把握することは難しいが、表4に記した4箇所は比較的よく知られている。なお、埋蔵文化財担当部局が情報更新に関わっているWebサイトの多くは各部局の上位にあたる組織、つまり都道府県庁や市町村の役所、教育委員会などのサイトの下位に設置されている。よって、上部組織のサイト内にある単なる文化財情報ページとして性格づけられているものや、上部組織のサイト内に配置されてはいるが単独の文化財サイトとしての性格も持ち合わせているものもあり、多種多様な有り様を示している。ただ、実際においては、都道府県庁や市町村の広報担当課がWebサイト内のすべてのページを一元的に制作・管理・運営していると判断される場合であっても、埋蔵文化財担当部局から広報担当課へ情報を適時伝達する方法で充実したWebページが作成されている可能性もありえる。ゆえに本稿では、都道府県庁・都道府県教育委員会のWebサイト内に埋蔵文化財担当部局のWebページがある場合はこれらのすべてをリストアップすることにした。

発掘調査成果の概要速報や催し物案内などを掲載する[速報機能]をもったページを常備している都道府県のサイトは10箇所にとどまる。市町村のサイトは4箇所ともがこれを常備している。代表電子メールアドレスを明記しているサイトは都道府県が13箇所と市町村が1箇所であり、その数は多いとはいえない。前述したように、電子メールによる問い合わせに対して部局内においてどのような手続きを経た上で応答をおこなうべきか、現段階ではその最適な方法を見出している埋蔵文化財担当部局は少ないのではなかろうか。つまり、電話応対と同様に担当者レベルの判断で即答可能なものなのか、メールをプリントアウトしたのちに文書として受付をおこない、さらに回答文書を作成して決済を仰いだのちにメールを返信すべきものなのかを判断しかねる状況が想定されるのである。

拡張機能的なコンテンツの整備状況をみると、情報検索機能を有するサイトは確認できないが、福岡市教育委員会文化財保護部が運営する【福岡市文化財探訪】(表4-No.4)では個別の遺跡情報や発掘調査報告書などのデータベースがカード的なページ管理方法で蓄積されつつあるようだ。電子刊行物配布機能を有するサイトは都道府県が3箇所のみで市町村が1箇所である。また、電子刊行物配布機能をもつサイトには、【岐阜県教育委員会文化課】(表3-No.13)、【兵庫県教育委員会埋蔵文化財調査事務所】(表3-No.27)、宮城県教育庁文化財保護課が管理する【みやぎの文化財】(表3-No.31)、恵那市教育委員会が管理する【恵那文化財情報】(表4-No.1)がある。なお、掲示板機能を有するサイトは皆無であった。

速報機能・電子刊行物配布機能を備えている都道府県担当部局のサイトは、埋蔵文化財センターのような調査研究機関のサイトが充実していない、または存在していない都道府県に確認できる。逆に言うと、各行政区域内の調査研究機関のサイトが充実している場合では、地方公共団体の埋蔵文化財担当部局のサイトにさほどの機能を設ける必要がないか、もしくはサイト自体を開設する必要がないものと判断されているように思われる。

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(3)博物館・資料館 (表5表6)

考古学資料を展示・収蔵する博物館や資料館が運営しているWebサイトの総数は、施設紹介的なものも含めると129箇所を数える。そのうち、独立したWebサイトとして当該機関・団体によって管理・運営がおこなわれていると判断されるものは、表5に掲げた110箇所である。独立したWebサイトで[基本情報]と[速報機能]をコンテンツとして常備しているものは100箇所にも及ぶ。また、施設紹介ページでもこの2つのコンテンツをもつものは8箇所確認できる。総数の約84%のサイトが[速報機能]を有しているのは、博物館の基本的活動である企画展示や講座などの事業の広報宣伝効果を各館がWebサイトに期待していることの現れであろう。

施設紹介的なページを除く110箇所のサイトのうち、代表電子メールアドレスを明記しているサイト数は62箇所である。調査研究機関・団体や地方公共団体のサイトと同様に、その数は予想以上に少ないものである。実際の館内における業務と同様に、利用者からの情報提供や問い合わせをWebサイトでも受けようと考えている博物館・資料館はまだまだ少ないようである。

拡張機能的なコンテンツの整備状況をみると、情報検索機能を有するサイトは20箇所、関連データファイルのダウンロードサービスなどの電子刊行物配布機能を有するサイトは施設紹介的なサイトも含めて12箇所確認でき、掲示板機能を有するサイトは9箇所確認できる。情報検索システムを設置しているサイトとしては、【上田デジタルミュージアムネットワーク】(表5-No.13)、【大阪市立東洋陶磁美術館】(表5-No.16)、【金沢大学資料館】(表5-No.26)、【関西大学博物館】(表5-No.29)、【京都国立博物館】(表5-No.32)、【京都造形芸術大学・京都芸術短期大学芸術館】(表5-No.33)、【国立民族学博物館】(表5-No.40)、滋賀県立琵琶湖博物館が管理・運営する【琵琶湖博物館インターネット展示室】(表5-No.49)、【東京国立博物館】(表5-No.65)、【東京大学総合研究博物館】(表5-No.66)の[デジタルミュージアム2000]、【東北歴史博物館】(表5-No.68)、【徳島県立博物館】(表5-No.69)、【中里町立博物館】(表5-No.75)、【奈良国立博物館】(表5-No.78)、日本博物館協会が運営する【やまびこネット】(表5-No.83)、【横浜市歴史博物館】(表5-No.107)、【琉球大学資料館風樹館】(表5-No.109)がある。なお、情報検索システムの公開を予定している博物館のサイトには、【茨城県歴史館】(表5-No.10)、西宮市立郷土資料館が運営する【西宮市立郷土資料館on the web】(表5-No.82)、【函館市立函館博物館】(表5-No.86)などが確認できる。

また、電子刊行物配布機能をもつサイトとしては、【秋田県立博物館】(表5-No.3)、【京都国立博物館】(表5-No.32)、【京都大学総合博物館】(表5-No.34)、【琵琶湖博物館インターネット展示室】(表5-No.49)、太宰府市文化ふれあい館が運営する【太宰府博物館】(表5-No.59)、【東北歴史博物館】(表5-No.68)、【徳島県立博物館】(表5-No.69)、【中里町立博物館】(表5-No.75)、【南山大学人類学博物館】(表5-No.80)、【福岡市博物館】(表5-No.91)、【富士吉田市歴史民俗博物館】(表5-No.93)、【奈良国立文化財研究所】(表1-No.16)内に設置された施設紹介ページ【奈良国立文化財研究所平城宮跡資料館】(表6-No.16)が確認できる。

多方向性情報交換機能を有する掲示板を設置した博物館・資料館のWebサイトには、【大阪府近つ飛鳥博物館】(表5-18)、【蒲郡市博物館】(表5-27)、【須玉町歴史資料館】(表5-55)、太宰府市文化ふれあい館が運営する【太宰府博物館】(表5-No.59)、【中川町郷土資料館】(表5-No.74)、【奈良国立文化財研究所飛鳥資料館】(表5-No.79)、【新潟県立歴史博物館】(表5-No.81)、【藤山歴史資料館】(表5-No.92)、【三島市郷土資料館】(表5-96)の9箇所が確認できる。

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(4)大学の調査研究機関・研究室(表7)

大学の埋蔵文化財調査研究機関・考古学研究室などが運営しているWebサイトのうち、独立したWebサイトとして管理・運営がおこなわれていると判断されるものとしては、表7に掲げた19箇所が現段階で確認できる。

情報検索機能をもつサイトには【岡山大学埋蔵文化財調査研究センター】(表7-No.3)、山口大学人文学部考古学研究室・教育学部地理学教室が管理・運営している【山口大学考古学・地理学オンラインミュージアム】(表7-No.18)が確認できる。

なお、電子刊行物配布機能をもつサイトには、【岡山大学埋蔵文化財調査研究センター】、【國學院大學日本文化研究所】(表7-No.8)、【静岡大学考古学研究室】(表7-No.9)、【島根大学埋蔵文化財調査研究センター】(表7-No.11)、【東北福祉大学梶原研究室】(表7-No.12)がある。

大学の調査研究機関・研究室のサイトにおける拡張機能的なコンテンツの充実度はまだ低いレベルにあるといえよう。しかしながら、大学のサイト内に配置されているこれらのサイトは他の法人系サイトと異なり、どちらかといえば個人系サイトに近い柔軟な管理・運営が可能であるため、本稿で取り上げている他の法人系サイトとは質を異にするものである。おそらく、その管理・運営方法やサイトの内容は、サイト管理者である特定個人に委ねられているケースが多いと思われる。よって、担当教官や学生の取り組み方次第でより充実した内容のWebサイトへ展開していくことが十分可能である。このため、大学の調査研究機関・研究室のサイトを他の法人系サイトと単純に比較するのは適当でないと判断される。

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4.法人系サイト運営上の問題点と課題

インターネットの活用が唱えられはじめた1990年代後半、各企業や団体は業務案内のパンフレットのようなWebサイトを競って公開した。そうした一般の動向に少し遅れて、公共機関や団体もWebサイトの公開を実施したのである。本稿の表中において[基本情報]のみに●印があるサイトには、業務案内や施設紹介といった従来は案内パンフレットに記載していた事項をそのままWebページ化したようなものや、まさに案内パンフレットをスキャナーで読み取り、パンフレットの画像をそのままHTMLファイル中に貼り付けただけのものも含まれるが、そうしたものの多くはたとえば「○○県庁ホームページ」といった上位のサイト中に配置された1ページである場合が多い。この上位のサイト全体としてみるならば、速報機能・情報検索機能・電子刊行物配布機能・掲示板を完備した充実した法人系サイトであると評価できるかもしれない。しかしながら、担当部局などの下部サイトが情報公開機能と公的サービス提供機能をもっていない状態では十分なオンラインサービスは望めないであろう。たとえば、サイト全体の管理者の電子メールアドレスだけが明示されている場合、文化財に関する質問をメールでそこへ送信しても、そのメールが文化財担当者のところへ素速く確実に届けられるかどうかは大いに疑問が残るのである。

ところで、独立したWebサイトとして管理・運営がおこなわれていると判断されるサイトのうち、調査研究機関・団体のすべてのサイトと博物館・資料館のサイトの約9割では、速報的な記事を掲載していることが確認できる。これに対して、都道府県庁のサイト内にある埋蔵文化財担当部局のサイトで速報的な記事を掲載しているのはわずか9箇所にとどまる。これは、文化財に関連したオンラインサービスの提供を埋蔵文化財センターなどのサイトに任せているといった個別事情もあろうが、独立した組織として業務を遂行している機関・団体に比べて、オンラインサービスの必要性が部局内でさほど認識されていないことの現れであろう。担当部局内でオンライン公開情報の選別とWebページの制作・管理が業務として組織的に実行されないかぎりは継続的なWebサイトの更新など望むべくもないのだ。また、オンラインサービスの必要性が認識されていたとしても、Webサイトの更新をおこなう際に、従前の印刷物の刊行物作成と同様に、不必要なまでに多くの決済を仰がねばならないのでは、オンラインであればこそ期待される情報の新鮮さはまったく失われてしまう。オンラインサービスに適した合理的かつ簡潔なWebサイトの管理方法が望まれるところである。

また、オンライン上における情報公開と公的サービスの提供をより充実したものとする情報検索機能・電子刊行物配布・掲示板機能などの拡張機能的なコンテンツは、独立したWebサイトとして管理・運営がおこなわれている調査研究機関・団体のサイトでは約半数、同様の博物館・資料館のサイトでは約3割においてその設置が確認できる。ところが、都道府県庁のサイト内にある埋蔵文化財担当部局のサイトでこうしたコンテンツを設置しているものは1割未満のわずか2箇所にすぎない。調査研究機関・団体のサイトにおいて拡張機能的なコンテンツを設置している都道府県以外の38都道府県では、オンライン上における埋蔵文化財関連情報の公開と公的サービスの提供がいまだ充実していない状況といえよう。さらにいえば、上記のうち9県では、都道府県の埋蔵文化財センターなどのサイトも設置されていないにもかかわらず、都道府県の担当部局のサイトも存在しない。全国的にみれば、埋蔵文化財行政におけるオンラインサービスの提供はまだまだ未熟な段階にあるといえよう。

考古学・埋蔵文化財に関連する法人系Webサイトを運営している各機関・団体の担当部局は、自らのWebサイトを案内パンフレットのオンライン版として認識するのではなく、各々の機関・団体におけるオンライン版の受付窓口として認識すべきと考える。受付窓口であるならば、何ヶ月も前に終了した催し物のポスターを貼りっぱなしのまま放置したり、来客の応対の際に受付担当者が無言で押し通すなどという事態はありえないはずだ。そのオンライン受付窓口では最新の情報が掲示されており、質問を受け付けて的確に応答し、刊行図書を配布し、情報の検索にも対応することが望まれているであろう。Webサイトにそうした機能を常備することによって、その機関・団体の情報公開能力が飛躍的に高まると同時に業務の合理化も期待できる。つまり、従来は電話やFAXや文書あるいは面談といった人手のかかる方法で処理されていた雑多な業務が漸次軽減されていくに違いない。利用者側にしても、面倒な手続きを経ずに要求するデータが入手可能であることのメリットは大きい。ただし、オンライン受付窓口としての役割を果たすWebサイトを管理・運営するためには、当然ながらこれを担当部署内における基本業務のひとつとして位置づけておく必要があろう。物好きな職員や担当他部局に任せておけば良いといった程度の認識しか各部局内で得られていないようでは、そのWebサイトは案内パンフレットのオンライン版の域を出るはずがない。Webサイトを受付窓口として機能させるためには、情報発信・受付の際の業務分担と決済区分、情報発信に要する基礎データ作成の業務分担方法などの部局内における課題点を整理した上で、Webサイトの管理・運営体制を確立しておく必要があろう。

法人系サイトにおいて「信頼性の高い情報公開機能」と「公的サービスのオンライン提供機能」を充足しようとする場合、いまひとつの問題点が存在する。それは配信されるデータの所在が可動的なものであることに起因する。以前までは、印刷媒体などの刊行物を発刊する形でデータを公開すれば、その刊行物の書名・編著者名・発行者名・発行年月日がそのデータの所在を示しており、これを活用する際にはその項目内容を文献註等に明示すれば、データの所在情報が共有可能となり、第三者がこのデータの参照を行う際もその項目を検索して目的の刊行物を入手すればよかった。こうした印刷物とは異なり、オンライン上で配信されるデータの所在を示すものはURLアドレスである。たとえば、そのデータがWeb上で配信されているならば、"Webサーバ名.ディレクトリ名.ファイル名"がその所在を示している。このデータを他の文中において活用する際にはURLアドレスを明示すれば、印刷刊行物等と同様にデータの所在情報が第三者にも共有される。ところが、一度発刊されれば書名等が不変である印刷刊行物とは異なり、オンライン上で配信されるデータファイルが配置されたサーバやディレクトリやファイル名は、サーバ管理者やファイル管理者によって随時変更される可能性を有している。同様に、印刷媒体などの刊行物に記述されている内容は改訂等のないかぎり原則的に不変であるが、オンライン上にあるデータファイルの記述内容は管理者側の都合で随時に改変をおこなうことが可能である。こうしたオンライン情報ならではの特性は情報内容の固定化を損なうため、その特性ゆえの利便性と相反して、個々の情報が有する信頼性を著しく損なう危険性がある。こうしたオンライン情報の浮動的な性質に起因する欠点を補うためには、サイト管理者による適切なファイル管理が必要とされる。たとえば、あるデータファイルのURLアドレスを変更する場合には、閲覧者が移動前の旧いURLアドレスを指定して閲覧した場合でも、移動先のURLアドレスを確認できるような対策を講じておくべきである。また、データファイルの記述内容を変更する場合には、どの箇所を何年何月何日に変更したかが容易に把握できる更新履歴を添付しておく必要がある。まして、そのデータファイルが調査報告書や学術論文のような電子刊行物的なものであるならば、データの不必要な改変は避けるべきであり、更新を行う場合も更新箇所と更新年月日の履歴を明記して、刊行物の記述内容の固定性を保証しなければならない。個人系サイトにおいても、配信情報の信頼性を保持する上記のような管理作業は当然ながら必要とされようが、より信頼性の高い公的な情報配信を求められている法人系サイトにおいては、こうした管理作業が確実にかつ継続的に実施されていかなければならないであろうと思量する。

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5.おわりに

本稿を執筆するに際して国内の考古学・埋蔵文化財に関連する法人系Webサイトをあらためて詳細に閲覧した結果、総合的にみればそれらのWebサイトはまだまだ発展する余地を残しているものが多いと評価されよう。しかしながら、各Webサイトにおいて積極的な運営活動が実施されて行けば、全国規模の考古学公共情報配信システムが非常に近い将来において有効に機能し始めるであろう。今回は悉皆調査を実施できなかった市町村教育委員会などの担当部局でも、独自のサイトを立ち上げずとも既存の市町村のWebサイトを活用してオンラインサービスを提供することがさほど困難とも思えない。

全国で毎年刊行されている発掘調査報告書のタイトル数は膨大なものである。続々と実施されている発掘調査現地説明会の資料の数もこれに比例し、また、博物館・資料館で刊行されている図録類のタイトル数も非常に多い。これらのすべてを旧来の手法によって検索対象とすることは事実上すでに不可能と思われる。これらの膨大な刊行物のリストと概要だけでも各担当機関のWebサイトに掲載されれば、誰もがこれらのすべてを検索対象とすることが可能になるのである。とくに今後刊行される発掘調査報告書の類に関しては、その内容をPDFファイルやHTMLファイルなどの形に電子文書化(註4)した上でオンライン配布をぜひとも実施すべきであろう。記録保存と引き替えに破壊された埋蔵文化財の情報は広く国民に共有されるべき性質のものである。多くの印刷本の発掘調査報告書は、その発行部数が少ないがために非常に限られた機関にしか配布されなかったり、販売価格が高価なために研究者以外の人が入手することは稀であるといった状況にあろう。また、発掘調査報告書の電子文書化は、記録保存された埋蔵文化財の情報を劣化させることなく永年保存が可能である点においても望ましい。このように、発掘調査報告書電子ファイルのオンライン配布は、記録保存と情報共有を一挙に実現する本来あるべき理想的な報告形態なのである。

インターネット接続環境を確立している考古学研究者の数はいまだ総数の多数を占めていないと思われるが、前回述べたように研究発表の場がオンライン上に拡大し、法人系サイトでの情報配信サービスが上記のように充実すれば、いまだに自らの研究活動におけるインターネットの有用性について懐疑の念を抱いている研究者も必然的にこれを活用することとなるであろう。

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  1. PDFファイルの閲覧には専用アプリケーションであるAcrobat Readerを必要とする。このプログラムは、Adobe Systems のサイトhttp://www.adobe.co.jp/で無償配付されている。
  2. Yutaka Endo氏作成のフリーウェア。このプログラムの配布は、http://www.vector.co.jp/authors/VA014425/でおこなわれている。(※このサイトのURLは次のほうが適当と思われる。http://hp.vector.co.jp/authors/VA014425/main.html 確認:2001.5.22)
  3. 本稿で紹介した考古学WebサイトのURL変更に関しては、筆者のサイト【南河内考古学研究所】内に設置しているリンク集でも修正情報を提供する予定である。なお、前回に紹介をおこなった個人系サイトのうち、2000年9月時点においてURLの変更が確認されるものは次の通りである。【arc-net】がhttp://arc-net.vo.to/に復帰、【Archaeological Newsletter from Suzuka】がhttp://www.mecha.ne.jp/~fujiwara/に、【青森遺跡探訪】 がhttp://jomon.cside.ne.jp/に、【南河内考古学研究所】がhttp://www.skao.net/にURLを変更している。(※【青森遺跡探訪】はその後閉鎖された。確認:2001.5.4)
  4. 発掘調査報告書の電子文書化に関する論考としては、次の論考が発表されている。
    水山昭宏 1997「報告書の電子化 -考古学及び埋文関連文書の電子化と公開について-」『考古学ジャーナル』418
    大工原豊 1999「発掘調査報告書の電子情報化について -フロッピーディスクからCD-ROMへ-」『考古学研究』第46巻第3号(通巻183号)
    水山昭宏 2000「電子報告書の現実と近未来像」『考古学研究』第46巻第4号(通巻184号)
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※当文書は『情報 祭祀考古』第18号(2000年8月31日、祭祀考古学会発行)所収の評論文である。
HTML版作成に際して、URL変更などの重要事項については※印の補註を付した。
HTML版公開:2001年5月22日
HTML版最終更新:2006年3月10日
植田隆司
webadmin@skao.net
南河内考古学研究所